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天邪鬼なダウンジャケット
2017.01.22

天邪鬼なダウンジャケット

ベンチレーション機能を備えたダウンジャケットを見たことがあるだろうか?

今季からMEのラインナップに加えられたMALANPHULAN JACKET(マランフラン・ジャケット)は、今までにない新しい感覚をもたらしてくれるダウン・ジャケットだ。高所登山など特殊かつ過酷な状況下で真価を発揮するべく企画されている。

マランフラン・ジャケットは撥水性の高い丈夫な生地と構造を持ち、700フィルパワーの撥水ダウンをふんだんに封入、大きな膨らみとともに非常に高い保温性を持っている。ところがまた、その保温性をまるで無いものとするかのごとく、脇部に大きなベンチレーションジッパーを備えてもいる。このひねくれた天邪鬼(あまのじゃく)な特徴を持つダウンジャケットが生まれた経緯と、その可能性を探ってみよう。

 


ヒマラヤ未踏峰登山との関わり

ヒマラヤ山脈の東側、ネパール・中国との国境付近に位置し、地元のガイドやシェルパですら何の情報も持っていない未踏峰がある。マランフラン(6573m)という名の、文字通り前人未到のこの山に、2014年、かのプロ登山家・竹内洋岳氏が最初に挑戦した。その際に、カメラマン兼クライミングパートナーとして同行した男がいる。MEサポートクライマーの仙石淳である。当時の様子を思い出しながら、仙石はこう語る。

「登山はとにかくめまぐるしく感じましたね。今まで幾度となくヨーロッパの高所やヒマラヤにも入ることはありましたが、このときのような本格的な撮影機材を持ち込んだカメラマンとしての遠征は初めての経験だったので、竹内さんの足を引っ張ることにならない様に気を張るのはもちろんのこと、撮影以外にも雑用などやることは盛りだくさん(笑)。特に仕事に対する責任が大きなプレッシャーになっていましたね。」

この時のマランフランへの挑戦は残念ながら未踏に終わっている。状況が厳しすぎたこともあるが、迷路の果てのようなエリアの未踏峰ゆえの極端な情報不足によるところも大きかったようだ。その貴重な一歩を刻みながら幾多の経験を持ち帰り、彼らは再びそこへ戻ってくることを誓うのだった。

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「暑くなっても脱がなくてすむダウンジャケットが欲しいんです。」

未知のエリア・ルートで忙しく働いてきた経験を反芻するうちに、いつしか仙石の頭の中に、マランフランのような特殊な状況下で使えるような、理想のダウンジャケットの形が浮かんできた。遠征から帰国した仙石が言うには、ME製品としてそれを作ってくれないかと言うことだった。

「最初の遠征では軽いことを重視したモデル、多少の撥水性のあるダウンジャケットを着ていましたが、テント泊が続くうちに、気をつけてはいても、いつのまにかテントに触れた袖や肩が湿ってくるんです。日に日にじわじわと、という感じですね。そしてやがてダウンの膨らみも少なくなってくる。少し寒い思いをしながら、もう少し水滴に対して耐えられる生地があれば、と思いました。でも、あまり耐水性を言い出すと今度は重く、嵩張ってきてしまうので、ほんの少しだけ、というのが大切なところです。岩稜帯での行動やちょっとした小枝などにも耐えられる強度があれば心強いですね。」

そこで軽量かつ強度があるポリカーボネートコーティングの生地を採用することにした。撥水性が持続するように新たに加工を施し、さらにフードと袖の部分は生地を2重にすることで強度と耐候性を高めている。

「なにせ未踏峰の登山。何もかも、何ひとつ、前情報がなく予測も立ちにくい。ルート工作をしながら登山と撮影をしていると、ウェアを着たり脱いだりする暇も場所もなくて。実際撮影の任務がなかったとしても、ハーネスをつけたまま足場の悪い中で竹内さんとテンポよく確保し合いながら進んでいかなければならないので、もうダウンは着たまま行動するほかありません。でもやっぱり暑くて脱ぎたくなることもあるんです。だから、暑くなっても脱がなくてすむダウンジャケットが欲しかったんです。」

ヒマラヤの高所。前人未到の世界で、寒い前提でダウンを着込んで行動するしかないのだが、状況次第では不意に過度に暑くなってしまうこともあるという。一時的に暑いからといって脱ぐ暇も場所もないわけだから、両脇に大きなベンチレーションジッパーを設ける他にない。こうした仙石のリクエストから、極端とも言えるほどに保温性の強弱が際立った、かつてないダウンジャケットが誕生した。その名も“未踏峰”マランフラン・ジャケットだ。

☆撮影:竹内洋岳

☆撮影:竹内洋岳

 

ヒマラヤでの使用感

ヨーロッパの高所や、湿度の高い南米エリアの山などではハードシェルを着用し、行動中の防寒着には化繊綿のモデルを使用する仙石だが、ヒマラヤは高度もあり乾燥しているので、ダウンが行動着にも適していると言う。湿り気がなく寒い分、暖かいダウン製品を使いたいと思うのは人情というものだろう。

「2016年、竹内さんの2度めのマランフランの挑戦に、このダウンを携えて行くことになりました。結果から言うと頂上直下までは迫ったものの、このときも残念ながら未踏に終わりました。さすがに未踏峰中の未踏峰、手強いですね。でもマランフラン・ジャケットは理想の働きをしてくれて、非常に快適でした。暑いと感じたらベンチレーションを開けるとすぐに涼しい風が入ってくる。下に着るもので気温に応じて調整する感じでしたね。」

マランフランジャケットの一番の特徴であるベンチレーションジッパーは、遠征の期間中、時折全開にすることもあったものの、通常は半分くらい開けたまま行動することが多かったようだ。

「今回の遠征は40日間ほど。キャラバンを含めこの期間中、マランフランジャケットは着っぱなしでした。5日間ほどのテント泊での登山が2回ありましたが、結露によるロフト減少などにも悩まされることもなく、頂上直下6300mでもこのジャケットで寒さを感じることはありませんでしたね。」

一般人に比べると寒さに強い仙石の言葉なのでそのまま鵜呑みにするのは問題があるかもしれないが、マランフラン・ジャケットは遠征の期間中そのロフトを保ち続けたことは確かだ。またこの臨機応変に使える分厚いダウンジャケットを携えることで、シュラフも軽量化できたこともメリットのひとつだと語る。

「裾周りも上からハーネスで締めることを前提にしているのですっきりさせてもらってます。シンプルで引っかかるところがないデザインは、ロープやガチャものを扱うことが多い登山ではストレスがなく、本当に助かります。」

フードを留めるフラップが大きめなのも、強風下で厚手のグローブをしていてもフードを括り易いよう、仙石のリクエストを反映した仕様だ。
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日本での使用感

ヒマラヤ高所で有効なこのマランフラン・ジャケットだが、日本で使うとなるとどうだろう?

「日本でお客さんを連れて山を登ることがありますが、お客さんのペースにあわせるとガイドにとっては運動量が少なく、寒いことがあります。そういったガイド登山の時にハードシェル代わりに着用すると暖かくて良い感じでしたね。暑いと思ったらベンチレーションをがばっと開けばすぐに涼しくなります。」

なるほど着脱の手間がないぶん、ガイディングにも余裕が出るということだ。自分の被服調整のために生じるちょっとした時間のロスを遠慮して、暑いのや寒いのを我慢している山のガイドは多いのではないのだろうか。

さて、この高い耐候性をもつマランフランジャケットを着ている時に、雪で困ったことは一度もないという仙石だが、雨の下ではどうなのだろうか?経験談を聞いてみた。

「冬の富士山にお客さんを連れて行く時、予想に反してみぞれ混じりの雨になったことがあったんです。実はそのとき雨具を持ってきていなくて…でもその日のゴールは佐藤小屋だし、馬返しからのゆっくり行ってもせいぜい3〜4時間の行程だったので、マランフランジャケットで行けるかなと思い歩きはじめました。さすがに最後の方で少し水がしみて来て寒かったのですが、完全に保温性がなくなるほどペシャンコになったわけではなく、撥水ダウンのおかげか、佐藤小屋の暖かい薪ストーブで乾くのも早かったですね。」

マランフラン・ジャケットは防水性を保証する製品ではないが、樹林帯の中でなら雨でも2時間程度なら問題ないのではないかというのが仙石の見解だった。

「長袖のTシャツのような薄着の格好の上にマランフランジャケットだけを着るなど、フリース+ハードシェルという2枚のレイヤリングの代わりに、マランフラン・ジャケットという選択は、気温の低い雪山においては大いにありだと思います。」

登山中に着るには暑すぎるというのが、もこもこの分厚いダウンジャケットに対するこれまでの常識のようなものだが、状況に応じてぜひマランフラン・ジャケットを試してみてほしい。きっと新しい感覚に出会えるはずだ。

余談だが、コートを脱ぐのもままならないのに気温差の激しい満員電車での通勤などでも、マランフラン・ジャケットのジッパーを開けることで快適にすごせるのではないだろうか。都市部での屋内外の極端すぎる寒暖の差こそ、最も悩ましいことのひとつであるはずだ。

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ヒマラヤ未踏峰の高所、長きにわたるテント生活のなかで、結露にダウンを濡らし寒さに耐え、先の様子もわからぬままロープを繰り出し、暑い寒いでいちいち被服調整をする余地も余裕もない過酷な状況で、あれば、と望んだマランフラン・ジャケット。これは、撮影に登山に雑用に忙しいクライマーの、“不平不満 全部入り”ジャケットなのだ。

(写真と文:新井知哉  ※☆は撮影:竹内洋岳)

MALANPHULAN JACKET :
http://mountain-equipment.jp/products/8865/

仙石淳 オフィシャルサイト :
http://www.sengokujun.com